植物細胞工学研究室の研究テーマ

 

 細胞工学研究室には三位正洋(教授),中村郁郎(助教授)2名の教官がおり、園芸学部,自然科学研究科の教官を兼務している.植物細胞工学研究室では、バイオテクノロジーを用いて作物・園芸花卉を改良することを目標として研究を進めている.以下にその一部を具体例としてあげる.

 現在進行中の主な研究内容

1)有用遺伝子の導入による形質転換植物作出
2)不定胚および不定芽形成の制御
3)細胞融合の育種的利用
4)培養変異の誘起とその遺伝的解析
5)体細胞多倍数性の分布とその意義
6)細胞分裂阻害剤を利用した倍数体作出の効率化
7)雌性配偶子の組織学的解析および単離技術の開発
8)雄性および雌性配偶子の培養による半数体植物の作出
9)相同組換えによる遺伝子の機能解析
10)植物プロモーター配列の機能解析
11)花の形態に関する分子遺伝学的解析
12)植物の種分化に関する研究


(1) 有用遺伝子の導入による形質転換植物作出:

 外来遺伝子を導入した形質転換植物の作出は,対象とする植物の特性を変えることがないために、導入した遺伝子の機能を解析したり、新しい有用形質を植物に付与するための画期的な方法である.本研究では,花卉園芸植物を主体として、様々な園芸植物について形質転換植物を効率良く作出する方法について研究し、その結果をもとに花色や、耐病性等の有用遺伝子を導入した形質転換体の作出を行っている。すでにシクラメンやコチョウランなどにおいて形質転換体の作出に成功している。


(2) 不定胚および不定芽形成の制御:

 植物の組織や培養細胞からの植物体再分化の条件を明らかにすることは,形質転換体や融合雑種の作出にとって、必要不可欠な条件である。植物体再生は不定胚あるいは不定芽のいずれかを経由することが知られている.本研究では様々な園芸植物を対象に種や品種に特異的な不定胚および不定芽の形成メカニズムおよび制御について解析を進めている.

(3) 細胞融合の育種的利用:

 種間雑種の作出は作物への有用遺伝子の導入や変異の拡大をもたらし、作物の利用範囲の拡大に大きく貢献している。しかし通常の交配では胚培養が適用できないような遠縁の種間での雑種獲得は困難である。こうした状況を打破し、細胞融合技術を広範な花卉育種へ応用するための可能性を検討する目的で、プロトプラストからの植物体再生系を確立すると共に、雑種獲得の期待される種間で細胞融合を行い、両種のゲノムの共存の可否、後代の獲得など育種的に重要な問題について研究を行っている。現在までに、カーネーション、プリムラ、アスパラガスなどでそれぞれ近縁種との体細胞雑種作出に成功している。

(4) 培養変異の誘起とその遺伝的解析:

 植物の組織培養過程において生じる培養変異の発生機構を培地成分と植物材料の遺伝的な特性から解明すると共に、得られた変異のスペクトラムと遺伝的な解析を行っている.


(5) 体細胞多倍数性の分布とその意義:

 近年、多くの植物において本来の整数倍の染色体数を持つ細胞が個体の様々な組織や器官に分布していることが明らかになってきた。この現象は体細胞多倍数性(polysomaty)と呼ばれているが、本研究ではそれらの倍数性細胞が存在する意義を明らかにする目的で、広範な植物種におけるこの現象の分布や組織特異性を調査し、その存在意義を解明すると共に、原因となる遺伝的な機構について研究を行っている。

(6) 細胞分裂阻害剤を利用した倍数体作出の効率化:

 コルヒチンなどの細胞分裂阻害剤処理による倍数体の作出は花の大型化や開花期の変化などをもたらし、古くから花卉園芸植物において重要な育種法のひとつである。しかし、従来は処理の結果を短期間で判定する方法がないために、詳細な処理条件等に関する研究ができなかった。本研究では、試験管内で育成した無菌植物や再分化能を有する培養細胞を対象に処理し、処理後に生じる葉などのDNA含量をフローサイトメーターを利用して調査することにより短期間に倍加条件を明らかにする手法を開発している。

(7) 雌性配偶子の組織学的解析および単離技術の開発:

 雌性配偶子である胚嚢は胚珠の内部にあって観察が困難なことから、その構造については不明な部分が多く、その稔性についてはほとんど調査されていない。また、受精のメカニズムについても同様の理由で情報がごく限られている。本研究は試験管内での受精を可能とするべく、数種の植物で非破壊的に胚嚢を観察する手法を開発すると共に、胚嚢や卵細胞の酵素的な単離手法の開発を行っている。

(8) 雄性および雌性配偶子の培養による半数体植物の作出:

 半数体植物の獲得はその倍加による純系植物の作出手段として、育種上きわめて重要である。本研究は数種の花卉を対象に花粉培養、未受精・偽受精胚珠培養を行うことにより、半数体植物作出の可能性を検討している。

(9) 相同組換えによる遺伝子の機能解析:

 植物から単離された遺伝子の本来の機能を調べるためのひとつの方法として、その遺伝子が機能しなくなるような(ノックアウト)変異体を作出することが有効であり、酵母やマウス等ではこの方法を用いた遺伝子の機能解析が盛んに行われている。本研究は、植物ではまだまだ立ち後れている相同組み換えを用いたノックアウト植物の作出するための手法を開発している。植物の遺伝子工学において、この方法が利用できれば、植物の持っている遺伝子そのものを改良することができる。

(10) 植物プロモーター配列の機能解析:

 プロモーター配列は、遺伝子が「いつ、どこで、どのくらい」発現するのか指示する機能を持っている。遺伝子工学の手法により植物を改良するためには、このプロモーター配列はプログラムに相当し、導入した遺伝子を目的とする組織で必要な量だけ発現させるために大変重要な役割を持っている。本研究では、特にストレス誘導プロモーター配列の機能解析を行っている。

(11) 花の形態形成に関する分子遺伝学的解析:

 花の形態形成に関与する遺伝子については、アラビドプシスやキンギョソウを材料として精力的な解析が行われている。しかしながらランやマメ科植物のように植物の花の形態は非常に多様であるので、まだまだ研究の余地は残されている。本研究では、花の形態形成関連遺伝子を他の植物に導入したり、改変した遺伝子を導入したりすることにより、花の形を自在に変化させることを目指して研究を進めている。

(12) 植物の種分化に関する研究:

 植物は、リンネ以来、外部形態に基づいて分類されてきた。しかし、研究者それぞれの分類基準が異なっているので、植物の種が一定の基準で分類されているとは言い難い。本研究では、植物の種分化を明らかにすることを目的として、すべての植物を同じ基準で分類するために葉緑体DNAの特定の配列 (PS-ID; plastid subtype identity) に着目して研究を進めており、チョコレートコスモス等では興味深い知見が得られている。

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